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大阪地方裁判所 昭和62年(ワ)7625号 判決

原告

安田正久

(他四名)

訴訟代理人弁護士

上坂明

(他六名)

被告

株式会社大丸鍍金

右代表者代表取締役

大丸屋英治

右訴訟代理人弁護士

芝原明夫

被告補助参加人

全国一般労働組合大阪府本部大丸鍍金労働組合

右代表者執行委員長

川口正彦

右訴訟代理人弁護士

徳井義幸

主文

一  被告は、

1  原告安田正久に対し、金五五一万四九一四円及び内金二〇〇万円に対する昭和六一年四月二九日から完済まで年一割の割合による、内金三二五万二九七〇円に対する昭和六二年九月一日から完済まで年六分の割合による各金員を、

2  原告岡本薫に対し、金三三九万〇八〇二円及び内金七〇万円に対する昭和六一年一〇月九日から完済まで年一割の割合による、内金二六九万〇八〇二円に対する昭和六二年九月一〇日から完済まで年六分の割合による各金員を、

3  原告斎藤正行に対し、金三三一万八八〇八円及び内金一〇〇万円に対する昭和六一年一〇月八日から完済まで年一割の割合による、内金二一八万九四九〇円に対する昭和六二年九月一六日から完済まで年六分の割合による各金員を、

4  原告伏井義征に対し、金二二三万三一九〇円及びこれに対する昭和六二年一〇月一一日から完済まで年五分の割合による金員を、

5  原告山本義治に対し、金四一九万五七五三円及びこれに対する昭和六二年一〇月一一日から完済まで年五分の割合による金員を

各支払え。

二  原告岡本薫、原告斎藤正行のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、被告の負担とし、参加によって生じた費用は、被告補助参加人の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

(原告安田正久)

主文第一項1、第三項同旨の判決並びに仮執行宣言。

(原告岡本薫)

1 被告は、原告岡本薫に対し、金三三九万〇八〇二円及び内金七〇万円に対する昭和六一年一〇月九日から完済まで年一割の割合による、内金二六九万〇八〇二円に対する昭和六二年九月九日から完済まで年六分の割合による各金員を支払え。

2 主文第三項同旨。

3 仮執行宣言。

(原告斎藤正行)

1 被告は、原告斎藤正行に対し、金三四六万〇四四八円及び内金一〇〇万円に対する昭和六一年一〇月八日から完済まで年一割の割合による、内金二一八万九四九〇円に対する昭和六二年九月一六日から完済まで年六分の割合による各金員を支払え。

2 主文第三項同旨。

3 仮執行宣言。

(原告伏井義征、原告山本義治)

主文第一項4、5、第三項同旨の判決並びに主文第一項につき仮執行宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は、原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  被告は各種金属鍍金加工等を業とする会社であり、原告らはいずれも被告の従業員であった。

2(一)  原告安田正久(以下「原告安田」という)は、昭和五七年四月二八日被告に対し、金二〇〇万円を、弁済期昭和六一年四月二八日、利息年一割(金一〇〇円につき、一日当たり金二銭七厘四毛、一カ月当たり金八二銭二厘)の約定で貸し渡した。

(二)  原告岡本薫(以下「原告岡本」という)は、昭和五七年一〇月八日被告に対し、金七〇万円を、弁済期昭和六一年一〇月八日、利息年一割(金一〇〇円につき、一日当たり金二銭七厘四毛、一カ月当たり金八二銭二厘)の約定で貸し渡した。

(三)  原告斎藤正行(以下「原告斎藤」という)は、昭和五七年四月二八日被告に対し、金一〇〇万円を、弁済期昭和六一年四月一七日、利息年一割(金一〇〇円につき、一日当たり金二銭七厘四毛、一カ月当たり金八二銭二厘)の約定で貸し渡した。

(四)  原告山本義治(以下「原告山本」という)は、昭和五七年四月一四日被告に対し、金一〇〇万円を、弁済期昭和六〇年四月一四日、利息年一割、期限後の損害金年五分の約定で貸し渡した。

3(一)  原告安田は、昭和五九年八月三一日被告を退職し、その退職金は金三二五万二九七〇円であった。

原告安田と被告とは、右退職金支払を昭和六二年八月三一日まで猶予するとの合意をした。

(二)  原告岡本は、昭和五九年九月九日被告を退職し、その退職金は金二六九万〇八〇二円であった。

原告安田と被告とは、右退職金支払を昭和六二年九月八日まで猶予するとの合意をした。

(三)  原告斎藤は、昭和五九年九月一五日被告を退職し、その退職金は金二一八万九四九〇円であった。

原告安田と被告とは、右退職金支払を昭和六二年九月一五日まで猶予するとの合意をした。

(四)  原告伏井義征(以下「原告伏井」という)は、昭和五八年三月二六日被告を退職し、その退職金は金二二三万三一九〇円であった。

(五)  原告山本は、昭和六一年七月二六日被告を退職し、その退職金は金三一九万五七五三円であった。

4  よって原告らは被告に対し以下の金員の支払を求める。

(一) 原告安田につき、貸金二〇〇万円及びこれに対する昭和六〇年一月一日から弁済期である昭和六一年四月二八日までの約定利率年一割の割合による利息内金二六万一九四四円並びに退職金三二五万二九七〇円の合計金五五一万四九一四円並びに内貸金二〇〇万円に対する弁済期後の昭和六一年四月二九日から完済まで約定利率年一割の割合による、内退職金三二五万二九七〇円に対する弁済期後の昭和六二年九月一日から完済まで商事法定利率年六分の割合による各遅延損害金。

(二) 原告岡本につき、貸金七〇万円及び退職金二六九万〇八〇二円の合計金三三九万〇八〇二円並びに内貸金七〇万円に対する弁済期後の昭和六一年一〇月九日から完済まで約定利率年一割の割合による、内退職金二六九万〇八〇二円に対する弁済期後の昭和六二年九月九日から完済まで商事法定利率年六分の割合による各遅延損害金。

(三) 原告斎藤につき、貸金一〇〇万円及びこれに対する昭和六〇年一月一日から弁済期である昭和六一年四月一七日までの約定利率年一割の割合による利息金二七万〇九五八円並びに退職金二一八万九四九〇円の合計金三四六万〇四四八円並びに内貸金一〇〇万円に対する弁済期後の昭和六一年一〇月八日から完済まで約定利率年一割の割合による、内退職金二一八万九四九〇円に対する弁済期後の昭和六二年九月一六日から完済まで商事法定利率年六分の割合による各遅延損害金。

(四) 原告伏井につき、退職金二二三万三一九〇円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和六二年一〇月一一日から完済まで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金。

(五) 原告山本につき、貸金一〇〇万円及び退職金三一九万五七五三円の合計金四一九万五七五三円及びこれに対する貸金については弁済期後であり、退職金については訴状送達の日の翌日である昭和六二年一〇月一一日から完済まで貸金については約定利率、退職金については民事法定利率年五分の割合による遅延損害金。

二  請求原因に対する認否

被告が各種金属鍍金加工等を業とする会社であり、原告らがいずれも被告の従業員であったことは認めるが、その余の請求原因事実は、原告らがその主張に係る日に退職したことを除き否認する。

三  抗弁

(被告)

1(一) 原告らも加入していた労働組合である被告補助参加人は、昭和五八年九月一六日全員出席総会(以下「九月総会」という)をもち、被告に対する貸金、退職金請求権を放棄するとの決議をした。

原告伏井を除く原告らは九月総会に出席して右決議に関与したものであり、右決議の結果はそのころ被告に伝えられた。

原告らの請求する貸金(以下「本件貸金」という)、退職金(以下「本件退職金」という)は、右決議の効力の及ぶ貸金、退職金請求権に係るもので、したがって原告らは被告に対し請求できないものである。

(二) 被告補助参加人は、昭和五九年五月ころ全員出席総会(以下「五月総会」という)をもち、被告に対する貸金、退職金請求権を放棄する前記決議を確認する決議をした。

五月総会の右決議結果もそのころ被告に伝えられたもので、右決議の効力によっても本件請求は許されないものである。

2 被告補助参加人は、昭和五六年四月ころ、経営不振となった被告の経営に関与することとなったが、その際原告ら被告補助参加人の組合員は、被告再建まで貸金、退職金請求権を行使しないとの合意をし、右合意は、そのころ被告補助参加人を経由して被告に伝えられた。

したがって本件貸金、退職金は、被告再建を停止条件とするものである。

(被告補助参加人)

被告抗弁1(一)と同旨。

四  抗弁に対する認否

否認する。

第三証拠(略)

理由

一  請求原因事実のうち、被告が各種金属鍍金加工等を業とする会社であり、原告らがいずれも被告の従業員であったことは当事者間に争いがなく、原告らがその主張に係る日に退職したことは被告が明らかに争わないのでこれを自白したものとみなす。

そして原本の存在及び成立に争いのない(書証略)、官公署作成部分については成立に争いがなく、その余の部分については弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる(書証略)並びに弁論の全趣旨によると、その余の請求原因事実もすべてこれを認めることができる。なお、前記各証によると請求原因2(三)に「昭和五七年四月二八日」とあるのは「昭和五七年四月一七日」の、同(四)に「昭和五七年四月一四日」とあるのは「昭和五七年四月一三日」の、「昭和六〇年四月一四日」とあるのは「昭和六一年四月一三日」の、同3(二)に「昭和六二年九月八日」とあるのは「昭和六二年九月九日」の各誤りであるものと認められる。また、(書証略)に「利息は年一割 日分二七(二・七と併記)銭(抹消済み)四毛 月三〇日 八円二二銭」とあるのは「利息年一割、ただし一年未満の利息の計算に当たっては、金一〇〇円につき、一日当たり金二銭七厘四毛、一カ月当たり金八二銭二厘で計算する」の意と解される。

二  抗弁事実については、これを認めるに足りる証拠はなく、かえって特に抗弁1の事実については、(証拠略)、被告代表者本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すると、

1  被告は、昭和二二年設立の会社であるが、第二次石油ショック等により経営が悪化し、昭和五七年には倒産の危機に直面したことから、倒産を回避するため、原告ら被告従業員等に対し、一人当たり金約一〇〇万円の貸付けを依頼し、その弁済期については、一年間据え置き、その後三年間で分割返済をするとされたこと、

2  原告らは、被告の右依頼に応じ、本件貸金債権を有することとなったこと、

3  しかし被告は、その後も取引先の倒産により債権回収が不能となり赤字が継続し、さらに当時の被告代表取締役大丸屋広治、取締役(常務)大丸屋輝子が被告の手形を流用したため、昭和五八年ころ再度倒産の危機に直面し、本件貸金債権の分割返済もなされなかったこと、

4  その際被告が、被告従業員で組織する労働組合である被告補助参加人に対し、被告再建のため全面的にその経営をゆだねることとしたことから、被告補助参加人は、昭和五八年九月一六日に九月総会を開き、本件貸金、退職金等被告従業員の有する貸金、退職金債権の行使方法も議論したこと、

5  その結果、被告の資金繰りは当分つかないが、三年後ころには改善されるであろうとの見通しの下、貸金(前記のとおり最終的な弁済期はなお三年後である)は弁済期まで分割返済せず三年据え置き、退職者が出たときには退職金も退職後三年間据え置くこととなったこと、

6  そして被告補助参加人は、経営委員を選出し、経営委員会を構成して被告再建を図ったが、前記大丸屋広治、大丸屋輝子が行方をくらますなど依然として不安定な経営状態が続き、被告補助参加人は、昭和五九年五月ころに五月総会を開き、再度退職金債権の行使方法も議論したこと、

7  その結果、前記同様の資金繰りの見通しの下、退職金は退職後三年間据え置くこととなったこと、

8  なおこれらの九月総会、五月総会に原告らの多くが参加したが、全員が参加したものではないこと、

9  また被告には、退職金支給時期につき、労働協約第五四条において、退職決定後二週間以内に全額を支払うと定められているが、右規定は九月総会、五月総会後も変更されてはいないこと、

10  そして原告安田、原告岡本、原告斎藤は、九月総会、五月総会後に被告を退職したが、同人らについては、それぞれ退職に際し、本件退職金の弁済期につき五月総会の結果に基づき退職後三年間の支払猶予をすることとし、その旨の書面が作成され、原告伏井についても、九月総会、五月総会前の退職であるが、同旨の手続がなされたが、原告山本については右手続がなされなかったこと、

以上の事実が認められ、(書証略)(弁論調書及び証人調書)中右認定に反する部分は採用できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

そして右によれば、九月総会、五月総会においては、貸金、退職金支払猶予は決議されたものの、これを放棄するとの決議は全くなされなかったものである。

なお原告山本の退職金支払時期については、退職三年後と解すべきかが問題となるが、被告はそもそもその旨の主張をしないところ、前記によれば、退職金支払時期につき労働協約の規定の変更はなされておらず、三年間の支払猶予をするについては、退職者各人とその退職に際し支払猶予の書面を作成していることが認められ、これによると九月総会、五月総会の決議は当然に被告と従業員との退職金支払時期についての合意を形成するものではなく、三年間の支払猶予をするについては、改めて各退職者と被告との間においてその旨の合意が必要であると解される。

三  以上の事実によれば、原告岡本、原告斎藤を除くその余の原告らの本訴請求はいずれも理由があるのでこれを認容することとし、原告岡本については、退職金の支払が昭和六二年九月九日まで猶予されているのであるから、原告岡本の請求は、被告に対し、貸金七〇万円及び退職金二六九万〇八〇二円の合計金三三九万〇八〇二円並びに内貸金七〇万円に対する弁済期後の昭和六一年一〇月九日から完済まで約定利率年一割の割合による、内退職金二六九万〇八〇二円に対する弁済期後の昭和六二年九月一〇日から完済まで商事法定利率年六分の割合による各遅延損害金の支払を求める限度で理由があるのでこれを認容することとし、その余は理由がないのでこれを棄却することとし、原告斎藤については、前記のとおり本件貸金の利息は年一割、ただし一年未満の利息の計算に当たっては、金一〇〇円につき、一日当たり金二銭七厘四毛、一カ月当たり金八二銭二厘で計算するというものであるので、これに従って貸金一〇〇万円に対する昭和六〇年一月一日から昭和六一年四月一七日までの利息を算出すると金一二万九三一八円となり、したがって原告斎藤の請求は、被告に対し、貸金一〇〇万円及びこれに対する昭和六〇年一月一日から弁済期である昭和六一年四月一七日までの前記利息金一二万九三一八円並びに退職金二一八万九四九〇円の合計金三三一万八八〇八円並びに内貸金一〇〇万円に対する弁済期後の昭和六一年一〇月八日から完済まで約定利率年一割の割合による、内退職金二一八万九四九〇円に対する弁済期後の昭和六二年九月一六日から完済まで商事法定利率年六分の割合による各遅延損害金の支払を求める限度で理由があるのでこれを認容することとし、その余は理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用、参加によって生じた費用の負担につき民訴法八九条、九二条但書、九四条後段を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 北澤章功)

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